今更に個人サイト―或いは当サイト設立の経緯


 SNSが猛威を振るう現代において、個人サイトを構える意義は多くない。個人でドメイン代・サーバー代を払い、WordPressをポチポチ弄り、誰が見るともしれない(おそらく誰も見ない)Webページを作って満足する、という域までくると、最早狂気の沙汰と言っていい。

 今日こんにち、世の中には便利なサービスがたくさんあって、我々はそこに自身の作品を公開することができる。そのほとんどは一銭も払うことなく利用できるし、SEO対策なんてしち面倒くさいことを考えなくても、閲覧者を作品まで誘導してくれる。なんて素晴らしいことだろう。

 その素晴らしい既存サービスに背を向けて、当サイトは設立された。その理由の多くを負うのは、いにしえの個人サイトを懐かしむ、私の懐古趣味である。
 2000年代から2010年代前半にかけて、一次・二次創作物やBlogをまとめた個人サイトが、インターネット上のそこかしこに存在していた。SNSの台頭に伴い姿を消したが、個人サイトには「手記・作品を公開する」以上の魅力があった。

 サイト上に配置するコンテンツの取捨選択、サイトデザイン、隠し要素などのギミック……。そこかしこに溢れる、画面の向こうの「管理人」の息づかい。リンクという細い糸だけが、離れ小島のサイト同士を繋いでいる。ネットの海を漂うことが一般的な趣味ではなかった時代の、スリリングな気配。

 個人サイト全盛期、私自身はサイト管理人ではなかった。しかし、いともたやすく見知らぬ人とつながれる今になって、あの小さな楽園が恋しくてならない。

 そしてもうひとつ、私を個人サイト設立に駆り立てた原因がある。ここまで読んでおわかりだろうが、私はひととの交流を積極的にできる方ではない。
 SNSの更新は日報どころか月報クラスの頻度だし、私生活でもLINEをメールのように使う。他者との接点を保つことに、奇妙な疲労感を覚えてしまう。

 そんな人間にとって、いくら作品を公開する場所とはいえ、「毎日更新」「毎週更新」が当然のSNS・既存サイトはあまりにもめまぐるしい。ついていけない。息切れしてしまうのだ。
 ランキングだとか、閲覧数だとかもよろしくない。連続投稿でバッヂ解放云々も鬱陶しい。そんな機能はあるからいけない。収益化もべつにいい。広告が邪魔くさい。全部、気にしなくていい場所が欲しい。

 そんなわけで、個人サイトである。端からSEOもへったくれもない場所だとわかっていれば、訪問者が少なかろうが皆無だろうが、気にもならないものである。ただ、私の思考と創作の集積箱として機能していればよい。更新も変更も何もかも、好きなときにすればいい。私がお金を払って所有している場所である。作ったものが消えることもない(無料ブログサービスを利用しなかったのはこのためだ。近年、大手ブログサービスが次々店じまいを宣言しているのはご存じのとおりである)。

 そんな思いを抑えきれなくなった私は、昨年末、”project-minatoya.net”という独自ドメインを取得した。とうとう後戻りできないところまで来てしまったのである。

 これからどこまで行けるのかはわからないが、このドメインを携えて、ゆったりと旅程を楽しむつもりだ。何しろ、濁流の如き世間一般の時流は、この場所までは届かないのだ。

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