私はpomeraが好きだ。
文具用品メーカー大手のKINGJIMが手がける、超ニッチデバイス・pomera。時代に逆行するコンセプトとは裏腹に、一部界隈に熱狂的な支持者を持つ製品である。
私は5年くらい「欲しいなぁ」と思いつつ、手を出せずにいたのだが、昨年秋にとうとうDM250を購入した。おかげで毎日ハッピーな生活を送っている。その偏愛について語ろう。
pomera、そのコンセプト
pomeraは文章作成に特化したデバイスである。詳しくは製品ページをご詳覧願うが、性能は徹底的なまでの一点突破型だ。
まず、pomeraが作成できるファイルは、テキストファイルである。PCのメモ帳で見る、あれだ。Wordファイルでも、一太郎ファイルでもない。pomeraが作成できるのは、美しく整えられた「書類」ではなく、中身の「文章」である。なんとも潔い、実直なつくりだ。
一方で、文章を作るための機能は充実している。国語・類語・英語辞典が標準装備されており、気になった単語は素早く意味を確認できる。単語検索で用語の使い方を確認したり、アウトライン表示で複雑な構成の文章を作成したり、比較表示でふたつのテキストファイルを変わるがわる編集したりと、とことん痒い所に手が届く仕様である。
文章の縦書き・横書き表示や、文字のフォント、背景グリッドの有無など、画面での見え方を細かく設定できるのも好印象だ。
pomeraは文章を作るため、それも文章の「中身」を作るための、非常に尖ったデバイスなのである。
pomera偏愛、その理由
聞くところによれば、pomeraユーザーのことをポメラニアンと呼ぶらしい。この半年で、私も立派なイヌ科動物となった。その理由は、pomeraのフットワークがたいへん軽いためである。
pomeraの重量は、公式ページによると約620g。電池持ちもたいへん良く、PC接続のタイミングで充電すれば、しばらくは心配なく使える。以上の性質から、pomeraはどこにでも持ち歩いて作業ができるデバイスに仕上がっている。これが、pomeraの売りのひとつでもある。
膝の上に乗せてパチパチ弾くのにちょうどよい設計になっているので、書斎を離れてどこにでも持って行ける。また、二つ折りの本体をパカッと開けるだけで、すぐにテキストエディタになるのもいい。PCの電源を入れ、OSが起動するのを待ち、Wordを開いて……という時間が短縮されるだけで、こんなにも文章生成へのハードルが下がるとは思わなかった。
たとえば、10分の空き時間で300文字の文章を打つために、わざわざWordを開くのは馬鹿げているように思えるだろう。しかし、pomeraの気軽さなら可能だ。この積み重ねのおかげで、私の文章執筆速度は明らかに向上した。pomeraには足を向けて寝られないのだ。
pomera購入、その障壁と対策
さて、冒頭で私はpomeraの購入を5年ほども躊躇っていたと書いた。その理由は単純だ。
高価なのである。
KINGJIMの公式ストアでは、pomeraの販売価格は約60,000円。各種通販でも、40,000円を下回ることはほとんどない。文章作成以外の使い道がない、尖ったデバイスにかけるには大きな投資である。
金欠の私は、5年間にもわたり購入したpomeraを値段ぶん活用できるのか、悩み続けていた。結果的には毎日ハッピーな生活を送っているわけだが、一点突破型の性能であるぶん、人を選ぶのは確かだろう。導入を検討している方のために、モデルケースとして私のpomera活用法を記しておこう。
高価なデバイスを買うときに心配になるのは、「飽きてそのうち使わなくなるのでは」ということだ。私にとっても、これが一番の懸念であった。
私のpomera活用シーンは次の通りである。
第一に、電車の中。私は頻繁に電車での長時間移動を行う。この時間を文章執筆に当てるため、bluetoothキーボードでスマートフォン版のWordを編集するなど、いろいろな方法を試していたのだが、pomera購入によりすべての問題が解消した。
第二に、寝室。私は書斎と寝室を分けているのだが、pomeraなら布団の上でも文章が入力できる。ノートPCのように多くの機能があるわけではないし、ブルーライトも激しいわけではないので、眠くなるまで文章を作ろう……ということが可能だ。
第三に、書斎。当然ながらpomeraは書斎での文章作成にも使える。PCを情報収集端末として使い、pomeraを文章作成端末として使い……というように、複数のデバイスの利点を活かしながら、腰を据えての作業をすることもできる。
要するに文章作成の6~7割をpomeraが担っているのが現状だ。pomeraを使い始めて気づいたのだが、Wordって結構使いにくい。書類の体裁を整えながら作るには最良の選択なのだが、小説やエッセイなど、文章の内容に集中するには意外と邪魔な機能があるのだ。不測のショートカットキーが入力され、文章の体裁が一気に変わってしまった経験は、誰もがお持ちだろう。pomeraにはそんな心配がない。
Wordの悪口はこれくらいにして、pomera活用シーンの分析に戻ろう。私は購入時、第一・第二の使い道を想定していた。つまりは、移動時やスキマ時間での活用である。特に、電車での長時間移動という明確な活用シーンがあったために、購入に踏み切った。がっつり腰を据えた作業でもpomeraが活躍している現状は嬉しい誤算だ。
pomeraの購入を躊躇っておられる方は、自分の生活リズムの中で、どこにpomeraを組み込むことができるか、考えることをおすすめする。「この時間が使える!」という確証があれば、pomeraは間違いなくこたえてくれるデバイスだ。
pomera、その使い分け
このpomeraへの愛を語る文章も、当然pomeraを使って入力している――と言いたいところなのだが、実は違う。この文章はPCで入力している。
pomeraよりPCのほうが秀でる作業もある。そのひとつが、web記事の作成である。
特に、URLを多く記載したり、画像を示したりするような記事には向かない。また、多くの情報を参照しながら執筆するような文章は、ウィンドウを切り替えて調べ物ができるPCの利点が生きる。
調べ物よりも文章内容に比重がある記事の下書き(エッセイや旅行記など)ではpomeraが活躍するので、web記事全般が駄目というわけではないのだが、blog更新などのためにpomeraを使おうとお考えの方は、自分の執筆スタイルとpomeraの利点がマッチするか、考えておくのをおすすめする。
また、pomeraは文章の校正や推敲にはあまり向いていないように、私には思える。pomeraは、一画面に多くても500文字程度しか文章を表示しない。また、任意の場所への高速移動は、そんなに得意ではない。あらかじめアウトラインを設定しておくことで、好きな箇所にジャンプすることができるが、マウスホイールを回してページを切り替えるようにはいかない。
そのため、離れた箇所の文章を照らし合わせたり、段落の構成を大きく入れ替えたり、といった作業は少々やりにくい。
私は現在、文章の原案を作るのにpomeraを使用し、PCに接続してテキストをコピー、Wordに貼り付けて校正・推敲をする、という文章作成フローをとっている。どのみち、テキストファイルの状態ではどこにも提出できないのだから、見栄えを整えるために何らかの作業を挟まねばならない。pomeraには原案作成作業に専念してもらおう、というわけだ。
Wordで作った文章も、校正・推敲は必須なのだから、手間はさほど変わっていない。むしろ、頭から通して読む必要があるぶん、完成度が上がっているきらいさえある。これもひとえにpomeraのおかげである……というのは、些か盲目的だろうか。
我ながらpomeraへの偏愛が迸っている本稿が、ポメラニアン候補生たちへの道標となることを願ってやまない。
pomeraはいいぞ。


