前回のあらすじ
八月某日、私と友人M氏は、「自らの欲望に忠実になって、好きなものを・好きなときに・好きなだけ注文する」というレギュレーションでサイゼリヤを訪れた。題して、「行儀の悪いサイゼリヤ」である。
詳細は前回の記事をご参照願う。
2ターンの注文を終えた我々は、普段は頼みそびれていた前菜や、サイゼリヤの名品デザートに舌鼓をうった。ここまでで来店から一時間。我々の食欲はまだ止まらない。
「行儀の悪いサイゼリヤ」は後半戦に突入した。
第三注文
ここまで、脂質多めのメニューだった私は、ここで小休止を挟むこととした。
- チョコレートケーキ&ミルクジェラート(¥500.)
レモンソルベを食べておきながら、ミルクジェラートも食べる。私の消化器官は強靱なのだ。アイスふたつ位で壊れる腹ではない。ご安心召されよ。
友人M氏はスープに興味を示した。第二注文で私がコーンクリームスープを食べていたのに触発されたのかもしれない。
- たまねぎのズッパ(¥300.)
- ティラミス クラシコ(¥300.)
第二注文のアロスティチーニに引き続き、謎の料理ズッパがお目見えである。イタリア語でスープや煮込み料理を意味する言葉らしい。かなり定義が広いようだ。
人気デザート・ティラミス クラシコが脇を固める、隙のない布陣である。
最初に届いたのは、たまねぎのズッパであった。

オニオンスープにバゲットを浮かべ、チーズをかけて炙ったグラタンスープである。この料理を通年提供するあたり、サイゼリヤの自信が見て取れる。炎天下の盛夏に、冷房が効いたサイゼリヤでグラタンスープを食するというのは、実は300円でできる贅沢としてはかなりのものなのかもしれない。
M氏のズッパ初体験を横目に、私はチョコレートケーキ&ミルクジェラートをいただく。

サイゼリアのミルクジェラートもまた、無二の味わいである。豊かな風味ながら、すっと消えていく潔い口溶け。チョコレートケーキも、しっかりココアの香りがしてたまらない。箸休めには丁度よい一皿である。
ズッパをすすり終えたM氏も、ティラミス クラシコに手をつける。

いつも気になるのだが、ティラミス クラシコを皿に盛り付けるときは、専用のガイドか何かがあるのだろうか。大盛りティラミス クラシコとか、メニューに追加されないだろうか。バケツいっぱい食べたいよ。
第四注文
ここにきて我々は、メイン料理を食べる気分になった。
前菜・デザート系のメニューを中心に、おのおの6、7皿完食していた我々だが、やはりメインを食べなければ物足りない。各自メニューを広げ、長考に入る。
サイゼリヤのメインとして、著名なのはなんといってもミラノ風ドリアであろう。たっぷりのホワイトソースとミートソースがたまらない一皿である。そのほかにも、パスタ、ピザ、肉料理と、ファミレスお馴染みのメニューが非常に安価に提供されている。
我々の検討は続く。
ところで私は、とある呪いに縛られている。外食時、たらこパスタを注文することを躊躇してしまうのである。
私はしっかり自炊をするほうなので、パスタの中でも、たらこソースやナポリタンなどは自力でそこそこの完成度のものを作ることができる。そうなると外食では、自分では作るのが面倒なミートソースやクリームスパゲティなどを優先的に注文するようになってしまうのだ。これを私は、「たらこパスタの呪い」と呼んでいる。ちなみに亜種として「豚の生姜焼きの呪い」がある。私は両方にばっちり縛られている。
……のだが、行儀の悪いサイゼリヤをしている今日である。「たらこパスタの呪い」の打破に挑んでもいいのかもしれない。
ということで、私の注文は、
- タラコソースシシリー風(¥400.)
に決定した。
一方のM氏は、ピザに標的を絞ったようだ。サイゼリヤのピザは、どの品も400円均一というクレイジーな価格設定である。やはり人気なのは、たっぷりのチーズがのった
- バッファローモッツァレラのマルゲリータピザ(¥400.)
だろう。ふたりとも注文をして、座して待つ。


――さて。どちらも程なく到着した。我々は喜び勇んでとりかかる。
たらこソースを絡めつつ、スパゲティを巻き取っていく。なお、パスタを上手に食べるコツは、伊丹十三のエッセイ『ヨーロッパ退屈日記』に「スパゲッティの正しい食べ方」として記されている。1965年の出版だが、侮るなかれ。この本のおかげで私は、フォーク一本で美しくパスタを食することができるようになった。
閑話休題。
「たらこパスタの呪い」を打破した私は、ほのかな高揚感を覚えながらパスタを食べきった。注文前は、
「なんだかんだ結構食べているし、完食できるかしら」
と思っていたのだが、いらぬ心配であった。ちょうどよい塩気とクリーム感があるソースは、次々口に運びたくなる味だ。ぺろりと食べきった。やっぱりたらこパスタって美味い。
一方、M氏はエキセントリックな奥義を披露していた。
マルゲリータが到着すると、M氏はピザカッターとフォークを手にした。そして、ステーキでも切るかのように、一口大にピザをカットし始めたのだ。

大変良い笑顔でM氏は、
「一回これやってみたかったんだよねー!」
と言うと、端からピザを食べていくという、見たことのない攻略方法を披露してくれた。なんてこった。君こそが行儀の悪いサイゼリヤMVPだ。
ここで告白しよう。M氏が「ピザを食べようかな」と検討を始めたときに、私はつい「半分こする?」と言いかけたのだ。そのことを、M氏のピザの食べ方(ひとり用)を見て、心から恥じた。
私はなんて愚かだったのだろうか。我々は、己の欲望に忠実な注文をするために、サイゼリヤを訪れたのだ。断じて「半分こ」などという一般的な食卓を再現するためではない。
忸怩たるものを感じる私には全く気づかず、M氏はいまだかつて見たことのない方法でピザ一枚を完食してくれた。
最終注文
メインを食べきった我々は、デザートを食べてこの食卓を締めることとした。これまでにも散々甘いものを食べているのだが、そんなのは知ったことではない。
私は最初から決めていた。
- プリンとティラミス クラシコの盛り合わせ(¥500.)
である。第一注文にプリンを食べていたことなど気にしない。私以外にも、サイゼリヤのプリンを二、三個食べたいと思っていた人はいるはずだ。
また、M氏の注文も迷いなかった。
- ジェラート&シナモンフォッカチオ(¥450.)
である。
第一注文でガーリックフォッカチオとチーズフォッカチオを制覇したM氏は、シナモンフォッカチオをも攻略せんとしていたのだ。伏線回収が上手なひとである。

待ちに待ったプリンとティラミス クラシコが到着した。
M氏のサイゼリヤお気に入りメニューはポテトのグリルだそうだが、私はこの盛り合わせかもしれない。毎回、デザートにはこれを注文しているような気がする。
プリンとティラミスを反復横跳びできる、我々の需要を知り尽くしたメニューだ。いつもトリフアイスクリームを頼むか、盛り合わせを頼むかで悩んでは、盛り合わせを注文している気がする。両方頼め。
なお、私は愚かにも、このサイゼリア訪問でトリフアイスクリームを食べるのを忘れていた。悔しすぎる。

M氏の注文・ジェラート&シナモンフォッカチオは、たっぷりのシナモンシュガーがかかった一皿である。原価は程々なのだろうが、この物価高の時代に、躊躇なく盛られたシナモンシュガーを見ると嬉しくなってしまう。
M氏は四苦八苦しながら、シナモンシュガーを零さぬよう、フォッカチオにかぶりついた。おいしそう。
私もエスプレッソをお供に、ティラミスとプリンを口に運ぶ。このころには我々は、
「おいしいねぇ」
「幸せだねぇ」
としか言えなくなっていた。
結果発表
こうして、我々の第一回行儀の悪いサイゼリヤは終了した。ファイナルリザルトを確認しよう。なお、リストは喫食順である。
【港の注文】
- イタリアンプリン(¥250.)
- エスカルゴのオーブン焼き(¥400.)
- 生ハムとバッファローモッツァレラの盛り合わせ(¥500.)
- レモンソルベ(¥250.)
- コーンクリームスープ(¥150.)
- チョリソー(¥400.)
- チョコレートケーキ&ミルクジェラート(¥500.)
- タラコソースシシリー風(¥400.)
- プリンとティラミス クラシコの盛り合わせ(¥500.)
- (セットドリンクバー ¥200.)
合計金額 ¥3,550.-
【M氏の注文】
- イタリアンプリン(¥250.)
- ガーリックフォッカチオ(¥200.)
- チーズフォッカチオ(¥250.)
- ポテトのグリル(¥300.)
- アロスティチーニ(¥400.)
- たまねぎのズッパ(¥300.)
- ティラミス クラシコ(¥300.)
- バッファローモッツァレラのマルゲリータピザ(¥400.)
- ジェラート&シナモンフォッカチオ(¥450.)
- (セットドリンクバー ¥200.)
合計金額 ¥3,050.-
サイゼリヤの伝票とは思えない値段である。なお、私の摂取カロリーは合計2,494kcal、M氏は合計2,770kcalとなった。これは、成人男性の一日の必要カロリーに相当する。
滞在時間は約二時間。ファミリーレストランの客としては長っ尻の部類であろうが、店内の混雑に気を配り、沢山注文したので許して欲しい。
港がトリフアイスクリームを食べ忘れるなど、やり残したことはあるが、概ね善戦したと言えよう。我々は互いの健闘を称え、十分な満足と共に、サイゼリヤをあとにした。
おわりに
サイゼリアを攻略した我々の、次の標的は既に決まっている。回転寿司だ。
またも「たらこパスタの呪い」と似たような縛りなのだが、親類に硬派な寿司職人がいた私は、回転寿司の「エビフライ握り」や「ハンバーグ握り」などを敬遠して今日まで生きてきてしまった。この話をしたところ、M氏に「一緒に食べに行こうよ!」言ってもらったのである。
デザートや麺類があり、少量ずつ注文するという点においても、回転寿司はぜひ野放図に食べてみたいレストランである。
近いうちに挑みたいと思っている。
サイゼリヤを退店した我々であるが、開店から居座っていたため、まだ時間は早かった。久しぶりの対面だった私たちは、我が愛車に乗り込み、ふたりでウィンドウショッピングなどして、カフェでケーキを食べて、夕方まで楽しく遊んだのだった。

おしまい。

