いきさつ
知己M氏とふたりでサイゼリヤに出かけた。我々には思惑があった。「行儀の悪いサイゼリヤ」をやろうというのだ。
サイゼリヤは気軽なファミレスだ。並み居るチェーン店の中でも、抜群の低価格を誇る。利用者も気軽に注文できる。
しかし、我々は普段、お行儀よくサイゼリヤで注文をしている。ドリアを食べ、ピザを食べ、サラダなんか頼んで分けて、ティラミスを食べておしまい。なんて行儀の良い食卓だろうか。
格式張ったレストランではないサイゼリヤならば、デザートとメインを反復横跳びするような、変則的な食事をしても、詰られるいわれはないはずだ。しかし、我々はふだん、そんなことをしない。なぜか。同行者や店員さんの視線を気にしているからだ。
そんな話をM氏とした私は、ふたりで「行儀の悪いサイゼリヤ」を決行することにした。
実践
レギュレーションは次の通りである。
- 己の欲望に忠実な注文をする。
- 残さず食べる。
以上である。「行儀の悪い」というのはあくまでも、注文が己の欲望に満ちていることをさす。我々は迷惑をかけたいわけではない。
八月某日、我々は関東某所のサイゼリヤを目指した。薄曇りの夏の日。開店と同時におしかける。昼時の混雑を避けるためである。
ほぼ貸し切り状態の中、窓辺の席へ案内された。胃袋は空っぽ、期待はたっぷりの我々は、早速メニューを開いた。
第一注文
今回のサイゼリヤ訪問にあたり、私は食べてみたいものがあった。エスカルゴである。
名前は知っているが、食べたことがないもの。ずっとサイゼリヤのメニューで眺めていたが、食べる機会を逃していた。私は大抵、ファミリーレストランには誰かと食事に来るので、腹を満たすには量が少ない前菜系の料理は食べたことのないものが多い。しかし、今回は気兼ねなく頼める。
私の第一注文は以下の通りだ。
- エスカルゴのオーブン焼き(¥400.)
- 生ハムとバッファローモッツァレラの盛り合わせ(¥500.)
- イタリアンプリン(¥250.)
エスカルゴのほか、食べる機会が少ない生ハムと、サイゼリヤでも屈指の名品・プリンを初手からセレクト。既にわりと行儀が悪い注文である。
対するM氏も、作戦を練ってきていた。フォッカチオだ。
こちらもサイゼリヤ名物のフォッカチオであるが、プレーン・ガーリック・タラコ・チーズ・シナモンと、五種類ものフレーバーが揃っている。行儀の良い注文であれば、一番食べたい一種類に絞ろうというところを、M氏は食べたい種類をぜんぶ食べようというのだ。なんと欲望に忠実なことか。
M氏の第一注文は、
- ガーリックフォッカチオ(¥200.)
- チーズフォッカチオ(¥250.)
- イタリアンプリン(¥250.)
である。
また、長き戦いに挑むため、セットドリンクバーをふたりとも注文する(¥200.)。
まず届いたのは、イタリアンプリンであった(ここだけ写真を撮り忘れた)。やはり、デザートは提供がスピーディーである。
サイゼリヤのプリンが美味であることに、今更何の説明もいるまい。プリンは固め派の私にとっては、サイゼリヤのプリンはひとつの理想型だ。このご時世で、なぜプリンが一個二五〇円で提供できるのか、企業努力に脱帽である。
我々は前菜の茶碗蒸しか何かのように、プリンをわしわし食べた。美味。
と、次にやってきたのはエスカルゴだ。むき身のエスカルゴが、オリーブオイルに浸かっている。見た目はアヒージョっぽい。たこ焼き器のような凹みの中に、三匹ぶんくらいのエスカルゴが入っていて、その上に極小に刻まれたニンジンなどの香味野菜が散らされている。
わくわくしながら食する。
添えられた野菜は、驚くほど柔らかくなっていた。しっかりした塩味と、エスカルゴの旨味、オリーブオイルの香味が噛む度に広がる。
初めて食べるエスカルゴは、ものすごく「貝」の味がした。当然だ。カタツムリ・ナメクジの仲間は、陸上進出した貝、「陸生貝類」である。ムニムニした歯ごたえと、じゅわっと広がる旨味は、まさしく巻貝の仲間であることを証明している。

アヒージョっぽい調理法のせいか、ずっと熱々のままで、ちょっと火傷をした。若干の被ダメもありながら、完食である。かなり塩気が強かったので、ワインまたはパンなどと食べるべき品であった。生憎注文していなかったので、単品で食べきる。
その頃、M氏の手元にはフォッカチオが届いていた。

チーズフォッカチオ・ガーリックフォッカチオの二皿だ。どちらもこんがり香ばしく、食欲をそそる。チーズとガーリックという、攻めの選択に、M氏の本気が窺えるオーダーだ。
同時に私の手元にも、生ハムが届いた。

生ハムはいつ食べても美味い。ワインが欲しい。ただ、残念なことにこの日の私は、自家用車を運転してサイゼリヤに参上していた。諦めるほかない。
このとき、私にとって誤算だったのは、未知の料理であるエスカルゴのオーブン焼きが予想よりしょっぱかったことだ。しょっぱエスカルゴ→しょっぱ生ハムのコンボは、味蕾にかける負担が少々大きかった。ひとえに私の采配ミスである。モッツァレラチーズのミルキーな風味を箸休めにしつつ、生ハムを賞味する。とはいえ美味である。
第二注文
とりあえず空腹ではなくなった我々は、落ち着いて第二注文に踏み切った。
私はまたも食べ逃していた前菜に焦点を当てたほか、スープ・デザートで塩味に偏った口内のリセットを図る。
- チョリソー(¥400.)
- コーンクリームスープ(¥150.)
- レモンソルベ(¥250.)
一方のM氏は次の通りだ。
- ポテトのグリル(¥300.)
- アロスティチーニ(¥400.)
M氏お気に入りだというポテト料理と、未知の串焼きアロスティチーニという、攻守のバランスがとれた注文である。
まず届いたのは私のレモンソルベだ。

聞くところによると、関東の一部店舗でしか取扱がないらしい。ラッキーである。塩味に偏った口が、爽やかなジェラートで浄化されていく。
さらに、コーンクリームスープとチョリソーも届いた。


サイゼリヤのコーンクリームスープは我が曾祖母のお気に入りメニューである。久々に食べてみたが、スープはかなりとろみがあって、トウモロコシの存在を強く感じられる。
行儀の悪いサイゼリヤを慣行している我々だが、食事マナーまでも行儀が悪いわけではない。フレンチのコースにも対応できるよう、上品なスープの飲み方など研究しながら、コーンクリームスープを完食する。
同時にチョリソーも楽しむ。第二注文では、塩味の強いチョリソーと甘味の強いコーンクリームスープという、「交互食べ」にもってこいな二品をチョイスできた。なかなかいい調子だ。
サイゼリヤのチョリソーを初めて食べたのだが、パリッとした皮に歯を立てると、じゅわりと肉汁が溢れる、幸福感の高いソーセージであった。パック詰めして家庭用に売って欲しい。
同時にM氏の注文も到着した。


ポテトのグリルはM氏のお気に入りメニューらしい。氏の言によると、
「前にサイゼリヤに来たときは、このポテトとアップルタルト(※期間限定メニュー)しか頼まなかったんだよね。職場の人と一緒だったからさ」
とのことである。今回との落差が激しい。
ポテトのグリルと同じものが、チョリソーの付け合わせで提供されているのだが、なるほど完成度が高いハッシュドポテトである。皿いっぱいに食べたいM氏の気持ちがよく分かる。
謎の串焼きアロスティチーニは、予想以上に焼き鳥っぽい見た目で提供された。謎のスパイスをつけていただく。子羊を串焼きにしたものらしい。私は食べ逃してしまったので、食レポはナシである。
途中経過
ここまでの途中経過を確認しよう。
港屋の注文額合計:¥1,950.-(6品)
M氏の注文額合計:¥1,400.-(5品)
サイゼリヤの食事としてはよい値段になりつつある。私の注文額が嵩んでいるのは、エスカルゴ・生ハム・チョリソーと、動物質の料理を多く頼んでいるためであろう。
この時点で来店から一時間が経過している。しかし、我々はまだ止まらない。「行儀の悪いサイゼリヤ」は後半戦に突入するのである。
行儀の悪いサイゼリヤ【後編】へ続く

